水ingAM株式会社 支店統括本部 プロフィット部 部長 熊谷 智一氏
水ingAM株式会社 支店統括本部 プロフィット部 OP管理チーム長 櫻井 俊輔氏
水ingAM株式会社 支店統括本部 プロフィット部 佐藤 悦子氏
水ingAMは、「総合水事業会社」水ingグループのオペレーション事業会社として、公共インフラ施設、各種産業・商業施設における水処理施設のオペレーション(維持管理)を行う会社です。300の事業所が全国各地にあり、約3,000人の従業員が、人々の生活を支えている水インフラの安全を日々守っています。
水ingAMでは、組織・仕事(プロジェクト)・人の情報を統合した「事業管理システム」を構築し、経営層や事業リーダー、地域・現場マネジャーのマネジメント支援に活用して、着実に成果を上げています。今回は、システム構築プロジェクト立ち上げの核となった櫻井氏、システム運用の要となっている佐藤氏、データ活用の視点からシステムの発展を支える熊谷氏に、システム構築の立ち上げから、実際の活用場面、今後の発展についてお話を伺いました。
櫻井 氏:
弊社には、全国に300ヶ所の事業所があり、それが50のPFエリア(PFはプラットフォームの略)に括られています。各エリアの状況を把握するために「PFエリアプロフィール」というレポートを作成するのですが、その基盤となるシステムが、「事業管理システム」です。事業管理というと、営業系の数字や財務的な数値の管理をイメージされるかもしれませんが、扱う範囲はそうした数値情報だけにとどまりません。「契約の情報」、「人員構成」や「資格に関する情報」、「人材のマネジメント」に関わる情報などもすべて一元化し、組織としての状況を総合的に、誰が見てもわかりやすい形で提供していくことを目指したものになります。
櫻井 氏:
2018年、水ingAMとして「新プラットフォーム戦略」を掲げました。その中核の一つに「仕事の仕方を変える」というものがあります。それまでは、全国にある300の事業所それぞれが、離れ小島のように部分最適で動いていました。多少近隣事業所との協力体制はあるものの、隣の事業所が何をしているのか見えにくいという状態です。そこで、近隣地域の5~6ヶ所の事務所を集めてマネジメントする仕組みとして導入されたのが、50のPFエリアです。そしてできたPFエリアを活性化していくためには、他のエリアがどのような状態にあるのかを把握する必要があります。自分たちのエリアについての理解を深めることはもちろんですが、他エリアとの比較もできるようになることで、適切な競争意識が芽生え、他エリア・事業所のベストプラクティスに学ぼうという動きが出てくると考えました。そのためには、経営層や地域マネジャーがいつでも参照できる、統一したフォーマットの「PFエリアプロフィール」が必要だということになりました。
「PFエリアプロフィール」のイメージ
櫻井 氏:
システム化を考えるに当たって、まずはExcelでの作成を試みました。そこでは、様々なシステムから多様なデータを集め、活用できるように格納・公開することが困難でした。更に、レポートを作成するには、Excelのマクロ機能を多用することになりますが、それでも多くの手作業が残ります。加えて、そのマクロを組んだ人にしかわからない仕組みになってしまうというリスクがあります。そこまで苦労して仕組みを作り上げても、経営層と現場の活用に耐えるレベルの精緻でタイムリーなレポートを毎月出すのは実質不可能だと判断しました。
櫻井 氏:
基幹システムは、会社内の重要な業務の根幹をなすシステムです。すべてが間違いなく運用されることが最優先です。基幹システムは変更を加えたり、新しいものを取り入れたりするハードルは高くなります。一方、私たちが実現したい世界は、「今までになかった分析軸でデータを見たい」とか、「仮想のグルーピングで仮説検証もできるようにしたい」といったものです。新しい試みですから、修正や変更は当然ある、というのが前提です。そういった要件を基幹システムへ直接変更を加えることは困難であり、現実的ではありません。従って、基幹システム内に我々が行いたい要件を構築することは難しいと判断しました。
櫻井 氏:
勿論基幹システムにはBIシステムが連携されていましたので、その機能を用いてデータ活用を展開してはどうかとも考えました。基幹システムに格納されているデータを抜き出して、BIシステムでレポートを出す、という仕組みです。ただ、閲覧制限の仕組みを確認すると、弊社の要望に合った形での実現ができないことがわかりました。また、基幹システム内からのデータ抽出については問題ないのですが、それ以外のシステムからのデータとの連携も必要で、特に人事系のデータを他のデータと同列で分析できるように結合していくには手間がかかり、想像以上に難しいことも明らかになりました。
櫻井 氏:
Rosic人材マネジメントシステムには人事系のデータが蓄積されていて、数値データの分析に強いBI機能もあります。データの取り込み機能も充実していて、閲覧制限の設定にも対応できていました。もしかするとRosic人材マネジメントシステムをベースに、事業管理システムが構築できるのではないか、と思いつき、弊社のRosicをサポートしてくれているコンサルタントに相談しました。すると、ちょうど新しいバージョンがリリースされるところで、今まで以上に大量のデータを扱うことができるようになり、経営情報システムとして求められるレベルの機能も用意されているとのこと。弊社で活用している既存Rosicとのデータ共有も問題がないということでした。PFエリアプロフィールには積極的に人に関する情報を取り込んでいく予定でしたので、Rosicの新バージョン(以下「Rosic」)が「事業管理システム」構築のベースには最適解だろう、ということになりました。
櫻井 氏:
50のPFエリアについての総合的な状況をまとめたレポートが「PFエリアプロフィール」です。そこには、損益の数字から契約や仕事の状況、人的な情報が一枚にまとめられており、毎月更新されていきます。
櫻井 氏:
50のPFエリア長とPFエリアをまとめる7つの支店担当者、本社関連部門、そして経営層がいつでもアクセスできるようになっています。事業所長や現場のメンバーには、エリア長を通じて展開してもらっています。情報の閲覧範囲は自分のエリアだけではなく、全国のエリアを見ることができるようにしています。他のエリアにも興味を持ってもらい、刺激を受けてほしいからです。
熊谷 氏:
「PFエリアプロフィール」は、グラフなどを使って視覚的に工夫されていますので、まずは興味を持ってくれた人が多かった印象です。公開から1年経って、単にシステムから出てくる自分のエリアのレポートを確認するだけではなく、他のエリアと比較をしたり、自ら求める数字をRosicから取り出したりして、自分の業務に活用する経営層や地域マネジャーが徐々に増えてきています。
先日、ある支店の営業会議があったのですが、支店長がRosicから出るレポートやデータを示しながら、今後の営業計画を発表していました。現場にデータ活用が浸透して、システムが活用されている場面を目の当たりにして、嬉しかったですね。
熊谷 氏:
経営にとっては、実績の分析だけではなく、そこから先どうなっていくのかを知ることが重要になります。ですから、このシステムの構築の際には、「予測」を重要なテーマのひとつと位置づけていました。弊社の事業は中長期契約をベースとしたビジネスが中心なので、確定部分をベースに、この先どういった戦略でいけばビジネスが拡大できるのか、拡大するためのリソースは十分なのかといったことを、仮説を立てて予測することが求められます。そうした要望に対応できるように意識しましたので、まずは満足してもらっています。
櫻井 氏:
既に経営層から新たな要望が出てきているので、期待されていることを感じています。一つは、当社の事業のメインであるオペレーション事業のデータだけではなく、メンテナンス事業のデータもすべて取り込み、全体で集計できるようにしてほしいという要望が上がってきて、対応をしました。
また、つい先日も要望がありました。私たちが持っている契約の中には、契約期間が10年から15年といった長期事業契約が一定数あります。そうした長期事業契約の全期間の収益を予測して自動集計する仕組みを作ってほしいということでした。これに対して、Rosicから出されるExcelのレポートのバックデータを活用し、15年分の集計が表に入るように出力、それを元に収益の予測を行いました。もしRosicのデータベースやレポート機能がなく、すべてExcelで一から作成したら、2週間はかかったかもしれないような予測が、数十分程度で完成し、迅速に情報提供することができました。
櫻井 氏:
まず、現場での集計作業がほぼすべて削減でき、事業所の負担を大幅に減らすことができました。
また、当時現場は基幹システムに入っている原価の詳細情報等を見ることができず、確認したければ本部に問い合わせをする必要がありました。しかし、Rosicが導入されてからは、システムにログインすれば即時に確認できますから、そうした問い合わせもほぼゼロになりました。
佐藤 氏:
私たち運用側の作業は、データの収集と整備、レポート作成です。収集データの集計やレポーティングが自動化されたことで削減できた工数と、システム化によって扱えるデータの範囲や量が大幅に拡大したことで増えた工数もあります。しかし、仕事の質が変化しました。現場の負担が大きく削減できたことや、支店全体の営業会議でのRosicの活用の事例などを聞くと、自分の仕事の成果が実感でき、嬉しく思っています。
熊谷 氏:
私はシステムの運用自体にはかかわっておらず、出てきたレポートや格納されているデータを活用する立場にあります。事業管理システム導入以前は、「こういうデータがみたい」とか「自分で立てた仮説を検証したい」と思ったら、櫻井や佐藤に依頼して、基礎データを出してもらうのを待つしかありませんでした。しかし、システムが導入されたことによって、Excelのレポート機能を活用して、信頼のおける集計データをベースに、仮の数字を投入したり、分析軸を変えたりといったことが可能になりました。そこでは、仮説検証、未来予測を容易に試すことができます。また、集計されたデータを深堀したければ、システム内ですぐに確認することもできます。データベースには過去のデータがルールに基づいて整然と格納されていますから、システム担当ではない私がデータを扱っていてもデータの根拠がわかり、安心感があります。こうしたことは事業所でも起こっています。これまでは本社の担当者にわざわざ依頼しないと手に入らなかった情報が、正確にさっと取り出せますから、現場でのデータ活用の幅は広がっていくと期待しています。
櫻井 氏:
私も以前はデータを集計することで精いっぱいだったのですが、集計自体は自動化されましたので、分析に時間を割くことができるようになりました。単なる業務の効率化にとどまらず、業務の質が大幅に向上するという、期待以上の効果が出ていると実感しています。
櫻井 氏:
まず、私たちが事業管理のために必要だと考えるすべてのデータが確実に格納し続けられることです。そこにシステム上の制限があればExcelでの例外運用が残ってしまいますし、一度決めた範囲を拡張、変更することができなければ、変化していくビジネス環境に対応していくことができません。
次に、データを取り込むための仕組みがしっかりとしていることです。できる限り手作業を排して、データを蓄積していけることが重要です。ただし一方で、あまりにガチガチのデータ連携しかできず、時々に発生する例外対応や確認作業ができないと、現実的な運用には乗りません。そうした点も重要なポイントでした。
閲覧権限が柔軟に設定できることも見極めのポイントでした。先に述べた通り、既存の基幹システムやBIツールでは人事系の情報との連携が困難だった事も大きなポイントの一つです。広く現場に情報を提供していこうと考えたときには、私たちが意図する閲覧権限に対応できることは重要な要素です。
そしてレポーティング機能が柔軟であることです。「新しい働き方」のための取り組みは、走りながら考えていくプロジェクトです。一回決めた画面を変えることができない、変えるのに時間とお金がかかってしまうということでは新しい挑戦や試みを止めてしまうことになります。
熊谷 氏:
ひとつは、システム以前の話ですが、導入コンサルティングの質の高さが挙げられます。システムと数字、経営と人事に明るいコンサルタントが、システム化にむけて様々なアドバイスをしてくれました。他のシステム改修をした際には、私たちが言ったことをそのまま「はい、わかりました」、「それは難しい」といって進めていく感じでしたので、システムに対して素人の私たちが実現するために必死にアイディアを絞りださなくてはなりませんでした。ですから、時間もかかりましたし、自分たちの想定以上の仕組みにはなりませんでした。一方、Rosicでのシステム構築の際には、私たちが最終的に実現したいことの背景まで理解していただき、プロとしてのアドバイスや提案をいただけたので、手戻りが非常に少ないプロジェクトでした。また、単に機能面の要件を詰めていくだけではなく、そこに至るまでの運用面や導入後の変更のしやすさなど、ユーザー側が見落としがちな面にも考慮してもらい、私たちが頭で考えていた以上の仕組みを作り上げることができました。
櫻井 氏:
システム化するというと、できるだけ自動化できれば良い、人手がかからない方が良いと考えがちです。しかし運用が完全に確定していない場合には、敢えて人の手を介する運用を残しながらシステムを発展させていく方が良い、ということを要件定義の際に提案していただけました。新しい挑戦をしていますから、修正したい、変更したいといったことが当然出てきます。他のシステムからのデータ連携の際には、少し手直しをしなければならない例外処理も発生することもあります。そうしたことをあらかじめ見越したかたちでシステムを設計し、開発してもらえたことが、経営層や現場からの要望に応えられる仕組みにすることができた大きな要因のひとつだと感じています。
櫻井 氏:
システム面では、私たちが重視していたポイントをすべてカバーしていました。経営層や現場での活用においては、レポーティング機能が想像以上に力を発揮してくれていると感じています。
実際のレポートを作成する前提として、私たちが見たい、分析したいと考えるコード体系を柔軟に設定できるという点が大きかったです。基幹システムは基幹であるが故に堅固である必要がありますから、実際には存在しない仮のカテゴリや組織、現場ベースで運用されている分類などを持つことができません。現状を現実的に把握したい、未来を予測したい、仮説を検証したいとなると、そうした「仮」の世界や現場のロジックを持つことが必要となります。Rosicではそうした設定がとても柔軟にできるため、私たちが意図した形で資料作成ができるようになりました。
集計結果は、Rosicの画面上で見ることもできますが、自分たちが見たい形でデザインしたExcelテンプレートにレポートを出力できる機能を持っています。こちらが想像以上に力を発揮してくれています。まず、Excelでグラフのデザインやデータの配置を自分たちの意図をもって設計できます。そして、Excelファイルの2シート目以降にバックデータが自動的に出力されているので、必要に応じて1シート目のグラフや表を簡単に修正、加工することも可能です。
熊谷 氏:
この機能を活用して、実績データの上に自分で立てた仮説の数字を組み入れることで、全社でオーソライズされたフォーマット形式で予測レポートを完成させることができます。システム導入以前なら、担当者に依頼するか、自分でExcelと格闘するしかなかったものが、短時間で、しかもいくつもの仮説を試すことができるようになりました。仕事の質の向上に大きく貢献してくれています。
櫻井 氏:
また、経営層や現場での活用が進むと、当初考えていたレポート内容を修正したいという要望もでてきます。そこでもExcelでのレポーティング機能が力を発揮しています。ちょっとした修正であれば、Excelテンプレートに自分たちで手を加えることができるからです。ひとつのレポートは既にバージョン6にまでなっていますが、自分たちで変更に対応することができています。もし、すべてをシステムの画面で見る形にしていたら、時間的にも予算的にも対応できず、今のように活用が進まなかっただろうと思います。
「プロジェクト実績・予測」のイメージ
櫻井 氏:
現在は、データに基づいてPFエリアをランクづけする機能を展開するために動いています。具体的にランキングが見えると、自分たちは全国でどのあたりにいるとか、思った以上に評価されているなど、他のエリアに対しての興味や競争意識が芽生えて、データやその活用に興味を持つようになることを期待しています。
最終的にはPFエリアの努力をフィードバックしていこうと考えています。現在は本部内でランキング機能を公開し、現場レベルへの展開シナリオを考えているところです。単に契約数や契約の大きさ、金額などで組織を判断してしまうと、エリアのロケーションや仕事そのものの性質など、個々人の努力ではどうしようもない要素が大きくなってしまいます。これでは、皆の納得感を得ることは難しいでしょう。今は事業関連の数字系の指標が4つ、人事・技術系の指標が3つという多様な指標でランキングを出しています。そういう観点からも、人事情報との連携が強固であることは、この仕組みの強みです。
熊谷 氏:
先日、全社の総合ランキングを確認したのですが、単に短期のビジネス数字だけでは目立たなかったエリアが上位にランクされていました。これまでは、どうしても損益ばかりに目がいってしまい、大型案件を持っているPFエリアにスポットが当たりがちでしたが、新しい指標群でのランキングを見ると、小規模の事業所でも、上位に上がってくることもあり、本機能に手ごたえを感じています。
櫻井 氏:
基幹システムでは、今回我々が求めた集計機能を持つことが難しかったので、契約情報は、1契約ごとに参照するしかありませんでした。Rosicで契約情報も含めた様々なデータを集約し、新しい分析軸を持てるようになったことで、契約情報を全体で俯瞰したり、地域ごとに集約してみたりと、新しい可視化をすることができるようになりました。
水ingAMの事業には、オペレーション、メンテナンスという2つの事業分野があります。これまでは、契約一つ一つしか確認できませでしたから、同じ地域の他の事業がどのような契約を持っているか、といったことが確認できませんでした。冒頭でお話をした「新プラットフォーム戦略」では、オペレーション部門もメンテナンス案件の拡大に関わるなど、横断的な動きを目指しています。Rosicでは、自分のエリアでの総合的な契約状況が履歴も含めて即座に確認できるようになりましたから、オペレーション事業部隊が過去に契約していたメンテナンスの案件を掘り起こして、新規受注を取っていくといった活動につなげることも可能です。PFエリアプロフィールにも、そうした情報を取り込んで、更に「新プラットフォーム戦略」を後押ししていこうと考えています。